「イベルメクチン」発見者・大村智博士が訴える「特例承認すべき」 国内でも服用患者は「あっという間に治った」

週刊新潮 2021年3月11日号掲載(抜粋)

治験には時間がかかりますが、海外のデータが豊富なのだから、日本で治験をしなくてもいいのではないか。専門家が数字を出して、たしかに効いていると発表しているのだから、それをもって特例承認してほしいと、イベルメクチンの発見者大村博士は訴える。

「元になるエバーメクチンという物質は、伊豆の川奈のゴルフ場近くで採取した土を研究室に持ち帰り、そこから分離した微生物から発見されました。世界中でエバーメクチン用に培養している微生物は、元を辿ればこの土からとれたのです。私が関わったのは線虫などに効くところまでで、その後、海外の多くの研究者がウイルスやがんに効くと発表しています。線虫の薬がなぜウイルスに、と聞かれますが、不思議ではありません。イベルメクチンはマクロライド系抗生物質に分類され、この系統の薬は第2、第3の作用をもつことが多いのです。風邪などに処方されるエリスロマイシンもマクロライド系抗生物質ですが、モチリンという消化を助けるホルモンと同じ作用があったり、抗炎症作用があってぜんそくなどに効いたりもします。また、重篤な副作用の報告がなく、アフリカでこの薬を配っているのが医師や看護師ではなく、主にボランティアなのも、危険性がないからです。体重50~60キロの人は3ミリグラムの錠剤を3~4錠飲めばよく、これだけ少量で効くのもすごいことです」

北里大学教授で、大村智記念研究所感染制御研究センター長、兼COVIDー19対策北里プロジェクト代表の花木秀明氏はイベルメクチンの効果をこう説く。 「ウイルスと細胞の結合を阻害し、ウイルスが体内に入ってしまった場合も、ウイルスの複製を阻害してくれます。それができるのは、イベルメクチンが、ウイルスのタンパクを核内に運ぶ移送物質の働きを阻害するからです。ウイルスタンパクが核内に入れなくなるので、複製できないというわけです。この二つの作用機序により、感染防止と症状軽減の双方に効果をもたらします」

「すでに何十年も使われ、広く安全性が示されているのは利点でしょう。現状では自宅療養者が飲む薬がない中、イベルメクチンは飲み薬なのも利点です。寄生虫については3ミリグラムの錠剤を1回4錠飲むとのことで、新型コロナに対しても同様の使い方になると思う。患者にとっても、医療機関への負担という点でも、メリットは大きい」と話すが、一方で「データが不十分である」と説明する。

「たしかに世界各国で、新型コロナへの有効性を示唆する報告は出ています。バングラデシュでは、イベルメクチンを飲んだ集団では、ウイルス消滅までの日数が15日から4日に、入院日数が15日から9日に短縮され、死亡率が6.8%から0.9%に低下した、と報告されています。ペルーのデータでは、イベルメクチンを大量に配布した地域では、そうでない地域と比べて発症者数、死亡者数が大きく減っています。ただ、イベルメクチンが入手しやすく使用しやすいこともあってか、データが出ている地域が南米や東南アジアなどに限られ、薬の有効性を示す信頼できる雑誌の論文が少ない。きちんとした臨床試験がまだ行われていないと考えています。もう一つ気になるのは、製薬会社は治験に積極的でなく、医師主導であること。すると予算が限られ、信頼に足る臨床試験を行うのが難しくなりかねません」

寺嶋教授は「私が知る範囲では、イベルメクチンを使用している例はわずかしかない」と言うが「これまで23例でイベルメクチンを使い、みなあっと言う間に治りました」と、元東京大学医学部講師、中目黒消化器クリニックの田淵正文院長は言う。「23人のうち半分は、抗原検査で陽性になった人、半分程度は濃厚接触者が近くにいて、発熱や嗅覚異常などの症状でコロナ感染が疑われた人、1名はよその病院のPCR検査で陽性だった人です。症状が出てから早く飲んだ人は1、2日で、合併症がある人も3、4日でよくなりました」

処方の仕方だが、「私はカモスタット、クラリスロマイシンという薬と一緒に処方しています。クラリスロマイシンは風邪など上気道の疾患に使う薬で、上気道に存在する菌に広く効くといわれます。さらにこの薬は、代謝経路がイベルメクチンとまったく同じ。だから同時投与すると、細胞のなかからウォッシュアウト、つまり時間が経過しての消滅がされにくくなり、おそらくイベルメクチンの細胞内の濃度が高い状態で保たれます。その結果、強い効果が出たと思うのです。一方、カモスタットは、イベルメクチンとは異なるメカニズムでウイルスが細胞のなかに入るのを妨害します。このように作用機序の異なる複数の薬でウイルスを叩くのが基本です」

「イベルメクチンは軽症者から重症者まで効果を発揮するとわかってきて、35の研究を解析すると、早期治療に84%、後期治療に39%、予防に90%の改善が見られました。当局が感染封じ込めを発表したインドでは、当初からイベルメクチンが服用されていました。ペルーやベネズエラ、エジプトなどではすでに国が認可しています。アメリカも少し前までNIH(国立衛生研究所)が使用に反対していたのが、推奨も反対もしない立場に転じ、1週間で5万人に処方できるようになりました。英リバプール大学のアンドリュー・ヒル教授の研究では、イベルメクチン投与群650中の死亡例は14で2.1%、非投与群597中では9.5%でした。ハーバードメディカルスクールなどによれば、投与群704例の致死率は1.4%で、同数の非投与群では8.5%。人工呼吸器装着者に限ると、7.3%と21.3%と、さらに差が広がっています」

日本でも医師の判断で処方は可能だが、花木教授は、「適用外で使用して、患者さんに万一、重篤な副作用が出た場合、処方した医師の責任が問われます。それが日本での処方が進まない理由の一つではないでしょうか。自宅療養者が急に亡くなる事例も報じられ、不安に過ごしている患者さんもいると思います。そういう方にだけでも配布できるようになってほしい」と切実に訴える。特効薬は、実は足元にあるのかもしれない。