円安を誘う「貯蓄から投資」

外国為替市場で、円安圧力が一向に収まりません。背景には、長期運用を見据えた個人マネーによる外貨資産投資の影響が見えてきます。

2024年1月から、新しい少額投資非課税制度(新NISA)が開始されました。年間投資枠が増大したほか、非課税保有期間が無期限になっています。家計の資産形成促進と、経済成長に必要な資金の供給拡大が目的でしたが、長引く円安の影響で公募投資信託での国内株式への投資比率(ETFを除く)は1割程度で、海外の株式や債券などが多くを占める状況です。NISA口座の増加とともに、国内の投資資金が海外資産にシフトするという結果を招いています。

新NISA開始による、国外へのネット買付額の試算は、年0.7兆円~3.9兆円程度となる見込みです。これは、2027年にかけてドル円相場が、約1~6円下がる計算になります。市場では、日米の金融政策の違いを背景に、中期的なドル安・円高を見込む意見が多数あるようですが、新NISAの開始は、一定の円安圧力をもたらす可能性があります。

財務省の統計によると、投資信託などを通じた海外投資を映す「株式・投資ファンド持ち分」は2024年1〜5月の合計で5兆円を上回る大幅な買い越しとなりました。一部は、為替リスクを回避した投資も含まれていますが、売り越しだった2023年の同期間と比べ、最大5兆円強の円売り需要が生じた計算になります。日銀が大規模な為替介入で円買い、ドル売りを行っても、個人の海外投資が増加し続ける限り、円安の波は止まらないでしょう。

投資の主体が企業から個人になったものの、企業の貿易・サービス収支を大きく上回る円売り需要が新たに生じ、需給面から円安を支える構図が鮮明になっています。しかも新NISAを通じた個人の海外投資の場合、長期運用前提の積立て方式の投資も多く、金利差の変化にかかわらず継続的に 円売り注文が出やすくなります。政府・日銀は円安インフレによる消費低迷などを強く警戒し、大規模な円買い介入を実施して、過度の円安を抑え込む姿勢です。しかし、岸田政権が掲げる「貯蓄から投資」の看板政策である新NISAが、大幅な円安を推進するという構図が浮かび上がり、市場は政策の二面性を突いているとも言えます。

将来の自分を見据えた資産防衛策を、1日でも早く講じることが必要かもしれません。